第2部 森林整備事業

更新日:2016年4月1日

1.基本理念

 「河道主義」から「流域主義」へ、吉野川の治水を流域の森林などの治水機能を含めて考える。

2.流域の森林の変遷

 吉野川の岩津上流域を11の集水域(別子、新宮、大森川、大橋、早明浦、穴内川、名頃、三縄、池田、明谷、岩津)に分けて、各流域の樹種、林齢別面積比率を林業統計などで基づいて解析した。ダウンロードのリンク 新規ウインドウで開きます。〈図1〉(PDF形式:47KB)

1) 1960年代後半から1970年代
 流域の森林は一斉拡大造林によって広葉樹林(自然林)からスギ・ヒノキの針葉人工林に大きく転換した。

2) 1980年代後半から90年代
 人工林は幼齢・若齢林から壮齢林に成長していった。

3) 現在(2000年)
 森林面積の65%を占める人工林の手入れは極めて不十分で、放置されているものが、40%を占め、さらに、手入れしているとされる60%の人工林も不十分な手入れ(間伐)で、本来の適正な間伐をしている森林は人工林の1%にも満たない。

3.流域の森林の治水機能の変遷

 上記の各流域の森林の変遷に対応した各流域の森林の治水機能(平均浸透能)の変遷を推察した。

1) 治水機能の現地調査から、放置・手入れ(間伐)不足の人工林は雨水の土壌浸透能は自然林の2.5分の1、貯水能は、表層土壌で10%も低下。

2) 伐採跡地での調査から、伐採跡地や幼齢林では浸透能は自然林の5分の1に低下。

3) 各流域及び全流域において、流域の平均浸透能(治水機能)を、その年代の樹種や林齢の構成に基づいて推定した。ダウンロードのリンク 新規ウインドウで開きます。〈図2〉(PDF形式:8KB)

  • 1960年代初期(流域の森林の大半は自然林)
    最も高い流域平均浸透能
  • 1970年代から80年代初期(一斉拡大造林によって人口林化が進行)
    急激な平均浸透能の低下で、最も低い流域平均浸透能。
  • 1990年代から2000年(人工林の成長期)
    流域の平均浸透能は回復、しかし、1960年初期の状態に及ばず、頭打ち。

4.タンクモデルによる河川流出解析

 1960年代初期(1961年)、1970年代(1974)及び1980年代初期(1982年)、1980年代後半(1989年)から1990年代(1990年、1992年、1993年、1999年)のそれぞれの時期で、各11の集水域の降水量と河川流量(ダム地点)の時間データまたは日データを用いて、その年の雨量-河川流量関係を再現するモデル(3つのタンクからなるタンクモデル)を構成。ダウンロードのリンク 新規ウインドウで開きます。〈図3〉(PDF形式:326KB)

1) 各集水域のタンクモデルの第一タンクの係数値とその集水域の平均浸透能には密接な関係があり、定式化も可能。ダウンロードのリンク 新規ウインドウで開きます。〈図4〉(PDF形式:1,131KB)

  • 平均浸透能が低下した70年代、80年代初期は第一タンクの流出係数は最も大きく、第2タンクへの浸透係数は最も小さい。
  • 1961年や森林が成長した1999年の第一タンクの流出係数は小さく、第2タンクへの浸透係数は大きい。

2) 同じ洪水でも1961年や1999年のモデルは1974年モデルと比較して、河川のピーク流量が有意に低減。

3) 第2、第3タンクモデルの係数値は、同一流域では、年代の推移にかかわらず一定。

4) 第1タンクの係数値は流域の植生の変化の影響を受け、第2,第3タンクの係数値はその流域の地形、地質、形状によって影響を受ける。

5.150年に一度の河川流量(基本高水)の予測

 建設省四国地方建設局(国土交通省四国地方整備局)が150年に一度の洪水(440mm/2日間)時に、岩津(基準点)における河川ピーク流量(基本高水流量)を推定するのに用いた過去10回の洪水時の降水量を同様に与えて、上記の11の集水域のタンクモデルで4つの年代(1961年、1974年、1982年、1999年)の岩津におけるピーク流量(基本高水流量)を求めた。ダウンロードのリンク 新規ウインドウで開きます。〈図5〉(PDF形式:44KB)

1) 各年代のモデルで予測された最も高いピーク流量

  • 1974年モデル:約22,000m3/秒,1982年モデル:約20,600m3/秒
  • 1999年モデル:約19,000m3/秒,1961年モデル:約18,000m3/秒

2) 150年に一度の洪水の基本高水流量が時々の流域の治水機能と関連して変化

3) 流域の浸透能が最も低下していた70年代が最も高く、流域の平均浸透能が回復してきた現在は、基本高水流量が約14%低減。流域の浸透能がより高かった1961年の流域に戻れば、基本高水流量は約20%低減する可能性を示唆。

4) 現在の計画高水流量(基本高水流量からダムなどの流量調整分を差し引いたもの)は16,000m3/秒と推定。

6.人工林整備(適正な間伐)による基本高水流量のより一層の削減

 現在、流域の森林の治水機能(平均浸透能)は1970年代から1980年代初期(一斉拡大造林時期・その直後)と比較して回復してきているが、決して十分ではない。さらに、流域の7割近い人工林が現状のように手入れが不十分なままで、放置されるならばその治水機能は停滞し、低下(劣化)することも考えられる。

1) 現地調査から、このような放置人工林を適性に間伐した場合、林床に広葉樹がすみやかに侵入、繁茂して、その浸透能が自然林に遜色ないほど向上することが判明ダウンロードのリンク 新規ウインドウで開きます。〈図6〉(PDF形式:9KB)

2) 吉野川流域の人工林を適性に間伐した場合、その治水機能の向上とそれに伴う基本高水流量の低減を予測。ダウンロードのリンク 新規ウインドウで開きます。〈図7〉(PDF形式:7KB)

  • 流域の人工林40%を2005年から2015年の10年間で適正間伐し、さらにその後10年間で残り60%を適性に間伐した場合、その流域浸透能から予測されるタンクモデルの係数値を求め、このモデルを用いて150年に一度の洪水時の基本高水流量を予測。
  • 2025年には、基本高水流量は約18,000m3/秒(1960年当時とほぼ同等)計画高水流量は15,000m3/秒と予測。
  • 2035年には、約17,000m3/秒(計画高水流量:14,000m3/秒)に低減を予測。

3) 吉野川の治水対策として現在の流域の人工林を適正に間伐を行うことによって、150年に一度の洪水に十分対応することが可能であることが判明した。すなわち、可動堰の建設や新たなダムの建設に頼らない治水対策として流域森林整備という「緑の公共事業」を提案する

7.森林整備事業(緑のダムの建設)について

1) 吉野川流域の放置人工林(人工林の40%)を適正に間伐する費用は53億円。残り60%の人工林も適正間伐する場合の総事業費は130億円と推定。

2) この森林整備を20年間で実施するとすれば、年間7億円の公共投資が必要。

3) この森林整備事業は間伐に伴う従来の補助金も含めて、年間15億から20億円の地元への投資となり、中・上流域の過疎の山村の地域振興につながる

4) この公共事業を単なる事業に終わらせるのではなく、持続的林業経営、地場産業の育成へと意識的に地域振興に結びつけていく必要がある。

注 「吉野川可動堰計画に代わる第十堰保全事業案と森林整備事業案の研究成果報告書」の取り扱いについては、本市はこの代替案を精査し、国が行う吉野川河川整備計画において意見を求められた場合に、この報告書を尊重し意見を述べることになります。

河川水路課

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