小説「眉山」のストーリー
最終更新日:2016年4月1日
東京。旅行代理店に勤める咲子に、母が入院している病院から「母が錯乱した」と電話が入った。
母は神田生まれのちゃきちゃきの江戸っ子。喧嘩っ早いが情にもろく、納得すればどんなわだかまりもさっさと忘れるさっぱりした性格――そんな母が惚けるはずはない。不安になった咲子は徳島へ一時帰郷する。
咲子は生まれたときから、父を知らない。小さい頃、母に父のことを問い詰めた時、母は父が大好きだったこと、その父には家庭があることを包み隠さず話し謝った。そして、「咲子」という名は苦しかった人生に明るい花が咲いた気がした――そんな想いから付けた名前だと話した。
「お父さんはどんな人ですか?」この時以来、その質問だけは呑み込んだままだ。
徳島へ帰郷した咲子が病院へ行くと、母は元気な姿を見せる。ケアマネージャーの大谷啓子から、母が横柄な看護師に啖呵を切った話を聞きようやく「錯乱」の意味が分かる咲子。だが医師によると、母はこの夏をどうにか越せるぐらいの末期癌だった。
咲子は、幼い頃に母とホタルを見に行った晩のこと――男の大きな暖かい手が自分の手を包むように握った感触―を思い出す。徳島に滞在を決めた咲子がある日母の病室にいると、医師・寺澤大介と、横柄な看護師の声が病室の外から聞こえてくる。「時々いるんだ、偉そうなこと言うのが。すぐベッド空くんだから辛抱して乗り越えよう」それを聞いた母は、ベッドの上に正座し寺澤に向かってド派手な啖呵を切った。張りのある声に、病室は静まり返る。
後日、寺澤からホテルのティールームに呼び出される咲子。寺澤は謝罪し、母が「献体」を申し込んでいることを咲子に伝える。衝撃を受けた咲子は、どうして献体なのか?と疑問を持つ。そのころ……母は全身に癌が転移していた。
やがて寺澤と咲子は時々食事をするようになる。咲子は献体のことを全て教えてくれと寺澤に頼み、寺澤もそれに一生懸命応える。
いつしか咲子と寺澤の間には愛が芽生えていた。母の病室では阿波おどりの話題になる。
阿波おどりの調べを謡う母――久しぶりに笑いの花が咲く病室。
ある日、咲子は賢一から小料理屋・甚平に呼び出され、母からの「人生が全部詰まった箱」を渡される。
母が咲子を徳島で産んだ理由、献体を思いついた理由、その答えが箱の中にあるのではないか…?
咲子の心の旅が始まっていく――。
※このストーリーは、原作を元に、ご参考までに記載させていただいたものです。映画用のシナリオではありません。
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